清々しく、雲一つない青空が、シュカの朝を輝かせていた。
そして、それに彩りを添えるのは、賑やかな人々の声と、絶え間無い祝砲。
「大変長らくお待たせ致しました。 今日の主要な催しとして最後を飾りますのはカップルレースです!」
司会が目一杯声を張るが、すぐに人々の喝采で掻き消されている。
「へぇ〜っ、凄いなぁ♪こんなにすごい祭りなんだ。」
「もっと小規模かと思っていたけど、やはり皆の娯楽と化しているんだろう」
キョロキョロと辺りを見回しながら楽しそうにはしゃいでいる彩牙の横では、当然のように江が彩牙の肩を抱いている。
「なー、蓮飛…」
「…あ?」
この雰囲気、天気共に真逆の様相を見せているのは蓮飛だ。
憮然とした表情で腕を組み龍景の隣にいる。
服装が愛らしいため、遠目から見れば少し拗ねているようにも見えなくないが、近寄れば纏う空気や目付きで完全に不機嫌な事は丸見えだ。
その不機嫌に心当たりのある龍景はその隣で冷や汗をたらたらとかいているような慌てぶりだ。
「はぁ?レースに負けてくれだ?」
その言葉を龍景から聞いたとたんに、蓮飛の端正な顔が歪む。
雰囲気に気圧されながらも龍景はフォローを出す。
「は、はい…。あ、でも賞品は俺達にくれる、と約束してくれましたし…」
「…ふざけんな。」
「え…ぁ…」
予想外、というか珍しい怒りを露にした蓮飛。
「てめーの力で勝って見せろって言ってやれ。ンな手段で金や賞品貰っても嬉しかねぇ。お断りだ。」
幼い頃から自活して、辛いことも自身の力で乗り越えて来た蓮飛だからこそ、そういった事が許せなかったのだろう。昨晩からずっと不機嫌なままだ。
「…蓮飛…どうしちゃったんだろうな?」
「さぁ?」
事のいきさつを全く聞いていない二人は、ただ首を傾げるばかりである。
「…そして、柳・晶ペア、最後に、孫・周防ペア。以上五組で争われます!」
司会が全てのペアを読み上げ、バタバタとスタート脇に走る。
「さぁ、どのペアが愛の力を見せ付け、優勝するのでしょうか!間もなく開始です!」
「…?」
彩牙はふっと空を見上げて首を傾げた。
「どうしたの?彩牙」
「風…風が、騒いでる…」
「…彩牙…」
江がそっと抱き寄せ、耳に唇を寄せる。
「ぅわっ、江!な、何…」
「…そろそろレースが始まるよ?…気になる事は、その後でもいいでしょ?」
「ぇ…ぁ…ぅ〜…」
「さ、行こう。」
まだ迷っている風の彩牙を連れて、江は馬の元へと向かった。
「龍景、わかってンだろうな?わざと負けたら絞めんぞ。」
「ぇ…あっ……はぃ…」
威圧するような蓮飛の態度に従うしかない龍景は、その長身を小さくちぢこませながら蓮飛の後を着いていった。
各々五組が馬に跨る。
スタート前からひと波乱ありそうな空気のまま、時間は迫っていく。
「やっぱり、風が何か言って…。」
彩牙の呟きは、
「よーい、スタート!!」
司会者の声と合図の音、そして大きな歓声の中に消えていった。
風が不安げに、4人の身を案じていた。
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