第42話「開花する密」



この道の先に、シュカ京がある。

そう聞いただけで俺の心が踊る。
色々やらなくちゃならないことがあるのは分かってるし、のんびり観光するわけじゃないけど。

新しい土地に来て、新しいものに触れて…。

そんな事が、嬉しいと思う。


きっとそれは、父さんや母さんの血が、思いが…きっと俺に伝わってるんだと思う。



いつか冒険者に…。

そんな夢を、俺に抱かせる。





「うっわ〜、凄い活気あるなぁ〜!」

「さすがに中心地なだけあって、人も物も多く行き交ってるんだよ。」


露店が並ぶ大通りを、あちこち見ながら回る。
青果店や宝飾店、食べ物屋に骨董品店。ありとあらゆる店が立ち並んでいる。


「あそこの出店、本が売ってるな…。俺、ちょっと見てくる。」


蓮飛は本の虫だから、どんな本でもパラパラとは見るらしい。
荷物の中に持っているのはヤトマの辞典に、医学書、陰陽術の本…。
とにかく、蓮飛の荷物は結構重量がある。


「あ、俺もお供しますよ」


で、龍景が必ず後からついていく。ついでに言うとさり気なく荷物を持ちながら。
龍景はあんまり荷物を持ってない。
俺よりは持ってるけど、割合軽々持ってる感じ。


「さて、どこに行こうか?二人を追う?」


江は俺よりもっと荷物が少ない。
不思議だけど、どうしても必要なものだけが入っているなら、そんなに大きい荷物にならないで済むらしい。

俺も余分なもの入れてる気はないんだけどな〜…。


「ううん、俺は俺でゆっくり見て回るよ。珍しいものもたくさんあるし。」

「それなら、私もお供しようかな。…ここは何度か訪れた事があるから。」

「そっか、江はハイアン中を旅した事があるんだもんな。」


俺は知らなかったけど、江はギルドじゃ名の通った冒険者。
ハイアン全体に広がっているギルドで知名度が高いと言う事は、つまりそれだけ経験をつんで、様々な場所に赴いてるっていう事だ。
父さんも母さんもそうだったから。

憧れの…目指している存在。


「そういえば、彩牙の服はハクシュウの伝統的な服とは少し違っているけど。」

「え?あぁ、うん。父さんや母さんが旅をしてきた時の土産とかが多いからかな。」

「なるほど。ほら、あの店にある服。良く似ているでしょ?」


指差す先には、確かに俺の気に入っている服に良く似た感じの服。
何だか、父さんと母さんの軌跡に会ったみたいで、凄く嬉しい。


「彩牙、嬉しそうだよ。」

「そうかな…?」


ふっ、と何気なく江の方を見る。
江はいつものどこか余裕の笑顔じゃなくて…優しい、柔らかい笑顔を浮かべていた。


「…ッ…。」

「ん?どうしたの、彩牙。」


ちょっと待て、


俺…なんか、今、変だぞ?



江がこんな風に笑ってる姿は珍しいなぁって、


江ってこんな表情もしてたんだっけ?って、


結構、優しい、穏やかな顔もするんだって、




…好きかも知れない……って……



「…!?」

「…彩牙?さっきから百面相で面白いのだけど。」


江が俺の顔を覗き込んでくる。
カッと頬が燃えるように熱くなる。


「なっ、何でもない!」


ぱっと相手から離れて、少し早足で歩く。
それでも、足の長い江は何ともないようについてくる。


「彩牙、どうしたの?」

「何でもないって言ってるだろ!」


市場の賑わいは相変わらずで、喧騒も激しいのに。

クスクスと笑う、いつもの江の笑い声が…不思議に甘く、耳に残った。



----Next----Back----



by月堂 亜泉 2005/8/20