この道の先に、シュカ京がある。
そう聞いただけで俺の心が踊る。
色々やらなくちゃならないことがあるのは分かってるし、のんびり観光するわけじゃないけど。
新しい土地に来て、新しいものに触れて…。
そんな事が、嬉しいと思う。
きっとそれは、父さんや母さんの血が、思いが…きっと俺に伝わってるんだと思う。
いつか冒険者に…。
そんな夢を、俺に抱かせる。
「うっわ〜、凄い活気あるなぁ〜!」
「さすがに中心地なだけあって、人も物も多く行き交ってるんだよ。」
露店が並ぶ大通りを、あちこち見ながら回る。
青果店や宝飾店、食べ物屋に骨董品店。ありとあらゆる店が立ち並んでいる。
「あそこの出店、本が売ってるな…。俺、ちょっと見てくる。」
蓮飛は本の虫だから、どんな本でもパラパラとは見るらしい。
荷物の中に持っているのはヤトマの辞典に、医学書、陰陽術の本…。
とにかく、蓮飛の荷物は結構重量がある。
「あ、俺もお供しますよ」
で、龍景が必ず後からついていく。ついでに言うとさり気なく荷物を持ちながら。
龍景はあんまり荷物を持ってない。
俺よりは持ってるけど、割合軽々持ってる感じ。
「さて、どこに行こうか?二人を追う?」
江は俺よりもっと荷物が少ない。
不思議だけど、どうしても必要なものだけが入っているなら、そんなに大きい荷物にならないで済むらしい。
俺も余分なもの入れてる気はないんだけどな〜…。
「ううん、俺は俺でゆっくり見て回るよ。珍しいものもたくさんあるし。」
「それなら、私もお供しようかな。…ここは何度か訪れた事があるから。」
「そっか、江はハイアン中を旅した事があるんだもんな。」
俺は知らなかったけど、江はギルドじゃ名の通った冒険者。
ハイアン全体に広がっているギルドで知名度が高いと言う事は、つまりそれだけ経験をつんで、様々な場所に赴いてるっていう事だ。
父さんも母さんもそうだったから。
憧れの…目指している存在。
「そういえば、彩牙の服はハクシュウの伝統的な服とは少し違っているけど。」
「え?あぁ、うん。父さんや母さんが旅をしてきた時の土産とかが多いからかな。」
「なるほど。ほら、あの店にある服。良く似ているでしょ?」
指差す先には、確かに俺の気に入っている服に良く似た感じの服。
何だか、父さんと母さんの軌跡に会ったみたいで、凄く嬉しい。
「彩牙、嬉しそうだよ。」
「そうかな…?」
ふっ、と何気なく江の方を見る。
江はいつものどこか余裕の笑顔じゃなくて…優しい、柔らかい笑顔を浮かべていた。
「…ッ…。」
「ん?どうしたの、彩牙。」
ちょっと待て、
俺…なんか、今、変だぞ?
江がこんな風に笑ってる姿は珍しいなぁって、
江ってこんな表情もしてたんだっけ?って、
結構、優しい、穏やかな顔もするんだって、
…好きかも知れない……って……
「…!?」
「…彩牙?さっきから百面相で面白いのだけど。」
江が俺の顔を覗き込んでくる。 カッと頬が燃えるように熱くなる。
「なっ、何でもない!」
ぱっと相手から離れて、少し早足で歩く。
それでも、足の長い江は何ともないようについてくる。
「彩牙、どうしたの?」
「何でもないって言ってるだろ!」
市場の賑わいは相変わらずで、喧騒も激しいのに。
クスクスと笑う、いつもの江の笑い声が…不思議に甘く、耳に残った。
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