「へえ、なかなかにいい作りをしているね。装飾も細かいし、宝石の輝きも十分だ。」
「詳しいんだな、江。」
「まぁ、職業柄『金目の物』には自然と詳しくなるかな。宝石を報酬に貰ったはいいけど、それが割に合わない、ではこちらが損をしてしまうから。」
「なるほど〜。」
「それよりもこの首飾りの場合、どれだけ持ち主が愛しているか、という事の方が重要だと思うけど。」
無事に首飾りの戻ってきた少女の表情は、湖面に踊る光よりも生き生きとしていた。
それが、なによりの礼となる。
しかし、私の頭の片隅には、先ほどの光景が焼き付いて離れようとしない。
怖いくらい……そう、寒気がするほどの……綺麗過ぎる光景。
蓮飛も神妙な面持ちで何かを考えていたし、あの気配…。
―――何か、が。「居た」のは感じられた。
「あ、の…。」
「うん?なんだ?」
「ありがとう…私の、大事な首飾りを見つけてくれて。」
小さなお礼の言葉に、しゃがんだ彩牙が嬉しそうに頭を撫でる。
「いいって。見つかって良かったな。…えーと、君の名前は?」
「葎花(りっか)って言うの」
「葎花ちゃんか、いい名前だね。俺は彩牙。んで、龍景に、蓮飛に…江。」
「うん、覚えた!…あのね、これから湖の水で焼き菓子を作るの。凄く美味しいんだから、お兄ちゃん達も来て?」
にこやかに微笑む少女の提案に、快く応じる事にした。
「…本当に、ありがとうございました。うちの子がお世話になって…。」
「いいえ、俺達は彼女の熱意に押されただけですから。」
人当たりのいい龍景は、こういう時には巧みな話術を使う。
自分も出来なくはないが、適材適所、といったところだろう。
「さぁ、大した物ではないのですけれど、この焼き菓子を食べてくださいな。」
「お母さんの焼き菓子は美味しいんだよ!食べてみて!」
「じゃ、遠慮なく、頂きまーす!」
彩牙が嬉しそうに口へ運ぶ。めいめいに口に運び、その芳醇な味わいを楽しむ。
少し変わった味がするが、それもまた癖になる。
「ところで、2、3聞きたい事があるんだ。」
蓮飛が真剣な顔をして葎花の母親に向き直る。
「この家は、シュカにしては珍しい造りをしている気がする。…そう、どちらかというと、ヤトマのような雰囲気さえある。
それに、この焼き菓子も…。たしかシュカ伝統の焼き菓子は小鳥の形をしている。
もう一つは、葎花の持っていた首飾りについている勾玉に似た細工…。これらの訳を教えて欲しい。」
小さな真実が、息を潜めた。
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