第20話「揺れる風」



神なんて、信じる性分ではなかった。
神がいるのならば、自分はこれ程までの苦難はないと思っていた。
…だが実のところ、神はいるのだ。

悪魔にも似た、神が…。


「彩牙…。」


神は、加護を望む者には顔をそむけ、望まぬ者に大いなる加護を与える。

悲劇なまでに…

だから、彼はこうして苦しんでいるのだ。

重すぎる加護に。


「また…聞こえたの?魔物の声が…。」


彩牙はこくりと頷いたきり、また黙り込む。


「彩牙っ!江っ!」


外からやってきたのは目の前に広がる穴から落ちた仲間。


「無事だったみてーだな、2人とも。」

「そっちも。どうやって抜けてきたの?」

「下には空間があって、横穴の一つに外へ出られる場所があったんです。」


蓮飛は大儀そうに伸びをしてから、彩牙の様子に気付いたらしい。
苦渋の色を浮かべた蓮飛は、ゆっくりと彩牙の元へ行き


「彩牙。江と龍景と一緒に宿へ戻ってろ。俺は、野暮用を済ませてから行く。」

「でも、道は…?」

「心配すんな。一度来た道なら帰れる。ほらよ、ウジウジしねーでさっさと行けっ!」







3人は宿に戻り軽く食事をして部屋に戻った。
彩牙は相変わらずで寝台に座り、窓をぼんやり見ながら風に身を晒していた。


「…彩牙。」


その様子があまりに痛々しくて…
―――……愛しくて、江は思わず抱き締めた。
彩牙が大きくたじろぐ。


「な…なんだよ、江!放せって!」

「放さないよ…。」


甘いけれど、どこか憂いた響きに彩牙の抵抗が緩む。
江は顎を持って相手を向かせ、深く口付けを交わす。

熱くて柔らかな舌が忍び込み、口内を蹂躙していくその濃厚な甘さに、経験の浅い彩牙はすぐに酔ってしまう。


「彩牙…好きだよ」


残酷なほど甘い響きが、彩牙の耳元に落とされた。





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by月堂亜泉  2004/12/17