神なんて、信じる性分ではなかった。
神がいるのならば、自分はこれ程までの苦難はないと思っていた。
…だが実のところ、神はいるのだ。
悪魔にも似た、神が…。
「彩牙…。」
神は、加護を望む者には顔をそむけ、望まぬ者に大いなる加護を与える。
悲劇なまでに…
だから、彼はこうして苦しんでいるのだ。
重すぎる加護に。
「また…聞こえたの?魔物の声が…。」
彩牙はこくりと頷いたきり、また黙り込む。
「彩牙っ!江っ!」
外からやってきたのは目の前に広がる穴から落ちた仲間。
「無事だったみてーだな、2人とも。」
「そっちも。どうやって抜けてきたの?」
「下には空間があって、横穴の一つに外へ出られる場所があったんです。」
蓮飛は大儀そうに伸びをしてから、彩牙の様子に気付いたらしい。
苦渋の色を浮かべた蓮飛は、ゆっくりと彩牙の元へ行き
「彩牙。江と龍景と一緒に宿へ戻ってろ。俺は、野暮用を済ませてから行く。」
「でも、道は…?」
「心配すんな。一度来た道なら帰れる。ほらよ、ウジウジしねーでさっさと行けっ!」
3人は宿に戻り軽く食事をして部屋に戻った。
彩牙は相変わらずで寝台に座り、窓をぼんやり見ながら風に身を晒していた。
「…彩牙。」
その様子があまりに痛々しくて…
―――……愛しくて、江は思わず抱き締めた。
彩牙が大きくたじろぐ。
「な…なんだよ、江!放せって!」
「放さないよ…。」
甘いけれど、どこか憂いた響きに彩牙の抵抗が緩む。
江は顎を持って相手を向かせ、深く口付けを交わす。
熱くて柔らかな舌が忍び込み、口内を蹂躙していくその濃厚な甘さに、経験の浅い彩牙はすぐに酔ってしまう。
「彩牙…好きだよ」
残酷なほど甘い響きが、彩牙の耳元に落とされた。
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