子供とはいえ、甲羅蜥蜴は思う以上に手強い相手だった。
まず、剣を振り下ろしても背にある硬い甲羅がいとも簡単に剣を受けとめてしまう。
横から凪いでいくように斬っていかなくてはならないのだが、そう大人しく斬られてもくれない。
「くっ…！」
恐ろしいほどの跳躍力を見せ、二本だけある鋭い牙が肩を擦る。
それでも龍景は引かなかった。
後ろでは蓮飛が鏡を何とかしようと無防備な状態にいる。ここを突破されてはならない。
そして、何か正体の知れぬ、込み上げる感情のまま、龍景は戦っていた。
「…合わせ鏡…というよりは、この鏡自体に呪力が宿っている感じだな…。」
蓮飛は眉をしかめながら分析する。
しばらく考え、解決策が見えたのか懐を探ろうとし、一瞬止まる。
右手にまだ残っている、暖かな感覚に動揺するかのように。
その温もりを与えた本人は自分を守るよう戦っている。時間はそうないだろう。
考えを持ちなおして懐から紙と、小さな瓶を取り出す。
紙を何枚にも重ね、九字を切る。そうしてから鏡をそれで包み、床に降ろす。
少し待っていると、紙から黒い染みが浮かんできた。
蓮飛は自分の読みが当たったのに口の端を吊り上げる。
「固体の形を取っているけど、これは水鏡だな…腐敗した獣でも漬けて穢した水か…？水を剋するは土。そして…土を生むは火…。」
小瓶の中の粉を出して、転がっている石で強く擦った。火花が散り、紙へ一気に引火する。
それと共に、鏡は耳を劈く音を立てて砕け散った。
それから、少し時は遡る。
一方の彩牙と江は、仲間の落ちていった穴を挟んで、巨大な甲羅蜥蜴と対峙していた。
「彩牙、君は後ろに下がっておいで。」
「何で！俺が仕留める！さっさと倒して２人を迎えに行かないと！」
「二人を信じていなよ。それに、剣使いの彩牙では向かっていっては穴に落ちてしまうよ。」
助けられない事に歯噛みする彩牙を宥め、江は銃を手にする。
「…さて、お手並み拝見といこうか。」
軽い口調で言うとすぐに、銃が何回か火を吹く。
それらは命中するも、あまりに甲羅が硬すぎて貫通するまでに至らない。
それでも江は怯むことがない。
相手が口から吐き出す酸も軽々と躱し、弱点を探すように銃を打ち込む。
一つ一つの動きに無駄はなく、しなやかに動く身体は美しささえ感じる。
彩牙は江の実力を見せ付けられ、嫉妬に近い憧れを感じつつも、別の感情に戸惑う。
彼の端正な顔、耳元で囁かれた声…何故か今思い出されて、耳が熱くなる。
「…なかなか、楽しませてくれる。でも、私たちの仲間を助けに行かなくてはならないから、そう長く君の相手をしている暇はないんだよ。」
軽く言うと、江は狭い洞窟内を縦横無尽に飛びまわり、四方八方から低めの位置に銃弾を打ち込む。
甲羅の下の柔らかな皮膚を貫通したのか、甲羅蜥蜴が咆える。
その時、耳を劈く高い音が地下から響いて来た。
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