「ああ、ここみたいだよ。」
辿りついたのは、まさに不気味としか言いようのない洞穴。
ぽっかりと口を開けた永久に続くかのような闇に、背筋に冷たい汗が伝う。
「魔物は陰を好む。これだけ暗けりゃ魔物も住むだろうな。」
たいした恐怖も感じていないのか、蓮飛はさらりと言って歩を進める。
心配そうに見る彩牙と龍景は、まるで耳を垂れた犬の兄弟な様で、余りの似通いに江が吹き出す。
「っ、何だよ、江!」
「いやいや、何でもないよ。…蓮飛は平気だよ。あれが常なんだから。」
普段は気付かれないほどに馴れ合っているけれど、自分の中はけして立ち入らせない。
広く浅く付き合うのは店をやる身としては非常に適した行為であろうが、江のように長く付き合った相手としては、もどかしい部分も多々生まれてくる。
(彼の場合は過去が過去だから、仕方のないことなんだけど…この二人にとっては、悲しいだろうね。…特に、彼に心酔してしまっている、この素直な青年は。)
江は横目で龍景の様子を見やる。
伝えられない愛情を持て余したような、何とも複雑そうな表情。
(龍景は一体いつ自分の気持ちを理解するんだろうか…楽しみだな。)
江が考えている事など、無論龍景が知るはずもない。
蓮飛の背中を追って中に入る。それに、彩牙と江が続く。
「…本当に、薄気味悪いところですね…。」
きょろきょろと龍景が辺りを見まわしつつ、相変わらず淡々と進む蓮飛を追う。
「彩牙…大丈夫?」
江が何気なく彩牙に声をかける。
快活な光を映す瞳はどこか哀しみを湛えていて、健康的な肌色は闇のせいだけではなく深く沈んでいた。
「…うん…大丈夫。」
「そう?…辛かったら無理しないで言ってごらん?」
「……。」
彩牙が意外な優しい言葉に目を瞬かせる。
江はにっこりと笑った瞬間、緊迫の空気が走ったのを察知し、切れ長の瞳を鋭くさせる。
洞穴の奥に駆けつけると、すでに魔物は目の前にいた。
黴臭い、と言うか、独特の匂いを放ちながら、その魔物はこちらをじっと窺っている。
「…これは…。」
「身の丈…約10尺…ってトコか?こんなデカイ甲羅蜥蜴の魔物なんて、そういないぜ…。」
岩の隙間からかすかに漏れた光で、爛々と目を光らせる魔物の輪郭が薄ぼんやりと見える。
蓮飛にしては珍しく、呪符を持って突撃攻撃にかかる。
その時だった。
「蓮飛さん!!!」
突如地面が落石し、蓮飛の身体が吸い込まれる。
その闇は、助けようと手を差し延べた龍景の身体をも飲み込んで。
魔物は目を更に禍禍しく輝かせ、彩牙と江を睨みつけていた…。
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