第14話「慈愛の光」



あいつの放つ光は、常に驚かされるほど陽の気に満ちている。


「辛いって…苦しいって…。」


その気は、陰を消し去る。陰が全てなくなるまで。…普通、そんな人間はいやしない。


「彩牙にはあの鳥の鳴き声が、そう聞こえたのかな…」
「そうじゃない…風が…教えてくれるんだ。俺に、語りかけてくるんだ…」


強い弱いに差はあるとしても、陰陽があってこその人間。
一体、あいつは何者なのか…。


「…ブレス…かな。」
「え?」
「西域で神の吐息と言われている、加護のある風の事を『ブレス』と言うんだよ。…確かヤトマにも同じような話があるから、明日蓮飛にでも聞いてみるといい。」
「…うん。」


分からない。
…星を見ても、彩牙の星はいつも強く輝いている。

それは、何を意味するのか…。


「今夜は、ゆっくり休んで。疲れたでしょ」
「…うん…。………!」
「…彩牙、そこまで露骨に警戒しなくていいんじゃない?屏で区切らなくても、そこまで場をわきまえなくないから。」
「ホントかよ…」
「本当。…この接吻に誓って…」
「んっ…!こ、江!」
「ふふ、それじゃあ、お休み。」


…俺は自分の未熟さを思い知らされる。
本当に阿夫利神の完全な力を降ろせたなら、あの魔物は炭となって浄化されただろうに…
そうすれば…彩牙にあんな表情をさせる事もなかった…。


「蓮飛さん…?」
「何だ…お前か。」
「何だ呼ばわりはひどいですよ…。」


何で、こいつは…こうも俺に構うんだろう。


「わりぃな。考え事してただけだ。」
「蓮飛さん、俺も…何か力になれませんか。」
「…さぁな。」


下手に俺に関わるな…と言っても、関わりを作ったのは俺だ。

でも、こいつは…他の二人と何か違う。

江のように何気なく居るというわけじゃない。
彩牙のようにじゃれてくると言うのとも少し違う。


「…さぁなって…。」
「いいから早く寝ろよ、もう真夜中過ぎだ。明日はシュカに入るんだからな…こんな所でへばられちゃ困る。」
「………はい…。」


何か言いたそうだったな、と気にするのを振り払い、俺は寝台へ向かう。
寝て、何か解決するとは思えないが、考え込んでも答えは出なさそうだ。
俺は大人しく、波のように襲い来る眠気に身を任せた。


明日の日は、もうすぐそこにまで近づいていた。





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by月堂 亜泉 2004/11/18