俺には、半分ヤトマの血が流れている。でもその自覚はほとんどなくて、
ヤトマの知識はお祖母様に教えてもらったものだった。
だから、知りたかった…ヤトマの字で記された、石版の見せるものを。
「馬が2頭しかいねーから2人ずつだな。」
荷物を括りつけ終わった蓮飛が呟き、くるりと振り向く。
「私は道が分かるから、先導しよう。」
蓮飛の言葉を受け颯爽と馬に乗る江。
そしてその流麗な動きのまま引き上げたのは…
「なっ!?おい、ちょっと待てーっ!」
「うん?何かな、彩牙…2人ずつだと聞いたでしょ?」
「聞いたけど、何で俺が江と一緒なんだよ!?」
馬上にも関わらずじたばたと暴れる彩牙を前に乗せると、
江は手馴れた手つきで手綱を持って逃げられないようにする。
「やっぱり、一緒に乗るなら可愛い子と乗りたいものだよ。」
「はぁあぁ〜?」
蓮飛は人知れず小さくため息をつく。
(あいつは、人の忠告を全く聞かない…。
昔からそうだった。
のらりくらりとしていながら意外に色んな事を考えていて。
1人でも生きていけるやつ…。)
突如蓮飛は首を振って、考えを打ち消す。
考えるのが「面倒になった」。それだけだった。
蓮飛は馬に乗った龍景の背をパンと叩く。龍景は慌てて蓮飛の方を向き、
「痛っ!って、蓮飛さん…。」
「ぼーっとしてンなよ…ほら、手ぇかせよ。袴じゃ乗れねーんだから。」
「え、こっちに乗るんですか!?」
「ったりめーだろ。あっちには彩牙が乗ってんだからよ。」
「あ、そ、そうですよね。」
慌てて差し出された大きな手に、決して男らしいとは言えない手を重ねると、
労わりながらもしっかりした強さに馬上へ引き上げられる。
「それじゃあ行くよ。ちゃんとついてきて、龍景。後ろばかり気にしてないで。」
「えっ、あ、はいっ。」
落ちないよう蓮飛が龍景の腰にしっかり抱きつく。
龍景は思わず身を固める。
江は相変わらず文句タラタラの彩牙をにこやかに見ながらゆっくり馬を走らせ始めた。
「ここが、丁度ハクシュウ領とシュカ領の境界になるかな。」
太陽の色が橙を帯びてきた頃、丁度境界の地までやってきた。
「そろそろここの近くで宿を取ろうか。ここからは道が狭くなるから、夜は危険だし。」
「そうですね…野犬が出ないとも限りませんし。」
冒険者である二人の経験上から出る台詞に、彩牙と蓮飛も頷く。
「少し行った所に小さいが町がある。そこなら宿もあるだろう。」
沈み行こうとする太陽を背に、4人は先にある町へ向かう。
1日の終わりを、「時の始まり」の合図として。
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