第6話「動き出す今」



街の風景を江は上機嫌で見やりながら慣れた道を行く。
目的地に向かう間、幾人もの女性の目線を引き連れて、と言う但し書き付きだが。




向かったのは、蓮飛の店。
先ごろ頼んでおいた薬を取りにやってきたのだ。


「こんにちは。」
「江か。薬はちゃんと出来てるぜ。」


蓮飛はいつもの通りカウンターにいた。
だが不思議なのは、自分より長身であろう青年…龍景の姿があることだ。


「蓮飛、この人は誰?…まさか、蓮飛の恋人とか?」


その言葉に真っ先に反応を返したのは龍景の方であった。
とはいえ、彼の場合は顔を真っ赤に染めただけではあるが、江には全て見とおされてしまう。


(へぇ、なるほど。そういう事なんだ。)


内心では顔が緩んでいる江は、そんな事を顔に出すほど青くは無い。


「違ぇよ。…彩牙から預かったあの石板、ちゃんと解明しようと冒険者としてこいつを雇ったんだ。な。」
「え?は、はい。」
「そうなんだ。…私は柳 江。名前を聞いても良いかな?」
「俺は孫龍景といいます。」


その名を聞いた反応は、矢張り少々驚きも含んでいた。


「孫って、あの孫家のご子息なんだ?……なるほど。どこか洗練された雰囲気だと思ったよ。そんな方が同業者だなんて、不思議な事もあるな…。」
「じゃあ貴方も、冒険者なんですか?」
「うん。多分君よりは経験は積んでいるつもりだけど。ついでに、恋愛の方も。」


くすくすと笑いながら見ると、龍景は耳まで赤くして俯いてしまう。


「いたいけな少年をいじめるなよ。」
「ふふ、いじめてるつもりはないんだけど。…でも、水臭いな、蓮飛。…私も冒険者の端くれなんだよ。」


相手の含みがある台詞に、蓮飛は肩を竦めて


「つまりはお前も雇えって事か?」
「察しがいいね、さすが蓮飛。」
「察せと言わんばかりの言われ方されて気付かないほど鈍かねぇよ…。2人も雇う程金は持ち合わせちゃねぇが?」
「蓮飛の依頼なら、無報酬でOKだよ。」


食い下がらないと判断した蓮飛は、渋々了承することにしたらしい。
ぽん、とカウンターに薬袋を置いて


「…ふぅ。仕方ねぇやつ。じゃ、さっそく最初の任務な。」
「何?」
「彩牙を呼んでこい。石板の事がちっとだけ解明されたからな。」


カウンターに置いたままの石板を指差し、蓮飛が告げる。


「私が?」
「あぁ。なんか問題あるか?」
「私にはないけど、彼はどうかな。」
「お前、まさか…」
「???」


意味深に微笑む江、察して苦い顔をする蓮飛、訳が分からず首を傾げる龍景。


「…もし何かしてきたんだったらお前が責任持って彩牙をつれてこい、いいなっ!?」
「分かったよ。それじゃ行ってきます」


肩を竦め置かれた薬袋を持って、江はさっきまで通ってきた道を戻っていった。






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by月堂 亜泉 2004/10/4