第4話「引き寄せられる光」



街の繁華街に近いところにあるギルド。
西域からのシステムを導入したこのギルドは、今やハクシュウだけでなく ハイアン全土にすっかり浸透している。

ハクシュウのギルドのカウンターに、1人の青年がやってきていた。
ぱっと目を引く長身に、背に流れる栗色の髪。
控えめながらも質の良い服を纏い、丁寧な物腰でカウンターに向かっていた。
彼も冒険者の1人ではある。

しかし、ギルドの主人は名簿を見ながら


「悪いが、アンタ個人にゃまだ依頼は入ってないねぇ。」
「…そうですか。」


青年は、少しだけ肩を丸めてため息をつく。
そんな様子の彼を見て、ギルドの主人は苦笑しため息をつく。


「まぁ…今はまだ偏見もあるからなぁ。気長にやると良いさ。」
「はい。ありがとうございます。」


深々と礼をすると、青年はゆっくりと出ていく。



自分でもそう上手く行くとは限らないと分かっていた事だが、 実際困難に直面するとどうしようもなく不安になる。


(ギルドのご主人はああ言って下さったけど…一体いつになったら一人前になれるんだろうか…)

「道程は遠いなぁ…」


小さく呟いた時、彼にしては珍しく周りに気を回すことを忘れていた。
どんっと何かがぶつかり、彼はよろけて尻餅をつく。


「すっ、すいません!」
「あぁ、悪い。平気か?」


声をかけられ見上げた瞬間、目を奪われた。


濡れたような美しい黒髪に、神秘的なヤトマ風の民族衣装。
少しつり上がった両の瞳には妖しいまでに赤と濃い橙の2色が艶を帯び輝く。


「…おい、大丈夫か?お前…どっか変なトコ打った?」
「えっ!?あ、いえ!大丈夫です!」
「立てるか?」


綺麗に響く少し高めの声とともに、手を差し伸べる。
相手から差し延べられる細くて柔らかな手は、男子にしては少々か弱く感じる。
しかし、こめられる力に男子だと再認識させられる。

それでも龍景に、朱に染まった顔を元に戻させる事は難しかった。


「ありがとうございます。…あの、貴方のお名前は。」
「俺は周防蓮飛だ。この先で薬屋をやっている。」
「蓮飛…さん。…あ、言い遅れました。俺は孫龍景(そん りゅうけい)といいます。  一応今は冒険者をしています。」


その名を聞いて、蓮飛が軽く目を見張る。


「孫…って…。」





「孫家のおぼっちゃんがこんな所で冒険者稼業とはなぁ。しかも、家出までして。」


香りの良い紅茶を出して啜りながら、蓮飛は相手を見ながら呟く。
龍景も遠慮がちに茶を飲みながら苦笑する。


「それは言わないでください…。」
「あ…大方その事で上手く行ってねぇんだろ。」
「…はい。」


蓮飛は少し考えてから何か思い立ったらしく、にっと笑った。


「なら、俺がお前を雇う。」
「え?」
「何だよ、嫌なのか?」
「い、いえ…そうじゃないですけど…。」
「決まりだな。…じゃ、依頼内容を話すぜ。」


そう言って、蓮飛は店の奥へと向かった。
しばらくして蓮飛が持ってきたのは、石板だった。


「コレの事について調べたいんだ。でも、はっきり言って手がかりは皆無に近い。」


龍景はその石板をまじまじと見つめる。
しばらく見つめているとはっとして懐を探り、皮袋を取り出した。


「これ…その石板にかかれている文字によく似ていませんか?」


龍景が蓮飛に渡したのは石の欠片だった。
石板と石の欠片を見比べ、蓮飛は呟く。


「ああ…これは多分、この石板の欠片だ。」
「えっ…?」



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by月堂 亜泉 2004/9/27