この二人が同じ部屋になる、と言うのも最近珍しくない。
江と龍景。性格的には余り似たところの無い2人だが、共通点はしっかりある。
「というわけで、蓮飛さんを喜ばせてあげたいんです!」
「ふうん、なるほど?」
「蓮飛さん、すぐに嫌って言いますから…。」
「でも、蓮飛は多分、嫌がってはいないと思うけど?彩牙なんかあれだけ抵抗するけど、している時は凄く可愛いものだよ?」
恋人バカな点である。
で、龍景は恋愛の経験が明らかに多いであろう江に「ハウツー」を聞き出そうと
こうして至極真面目に聞いているのである。
江と言えば、他人の恋愛沙汰をタダで聞けるのが楽しくて仕方ないらしい。
「でも、ホントに嫌だったら…とか思うんですよ。蓮飛さん、ああ見えてナイーブなところもあるって分かりましたから…。大事にしてあげたいんです。」
気真面目な龍景の言葉に、つい江は笑いそうになるのを抑えて肩をぽんぽん叩く。
「ふふ、あれほど龍景に心酔するとは正直私も思ってなかったんだよ?大丈夫、本当に嫌なら拳が飛んでくるよ。」
「こ、拳ですか…。」
相手の神妙な様子に耐えきれず肩を揺らして笑いながら、寛いで背凭れに体を預ける。
お茶をゆっくり飲み、ゆっくり愛銃の手入れをしながら相手にぽつぽつ助言を与える。
「自信持っていいと思うけど?まぁ、しいて言うなら…焦らすといいかも。」
「焦らすんですか。」
「そう。彩牙なんかは敏感だから…凄く、可愛らしくなるよ?」
江の声に低く妖しい響きが加わる。
龍景はその言葉に蓮飛を置き換えたらしい。
ついでに思わず想像してしまったのだろう。
真っ赤になってから首を振り、自分の思考から慌てて除外する。
江に言わせればこれは正常な反応なのだが。
「わ、分かりました。参考にしますね。」
「あぁ、程々に妬かせるのも手のうちだよ?度が過ぎると怒るけど。」
自ら行っていることなので説得力があるのか、龍景も納得して頷く。
江は楽しそうに再び笑った後、すっと口調を変えて
「なら、少し妬かせてみようか。」
「え?何の…って、ちょ、ちょっ!江さん!」
こういう事に関しては銃の扱いより巧みな江は、あっという間に相手との距離を詰め、
長いがしっかりと力強い指がいつの間にか顎に当てられている。
「実践。楽しそうだと思わない?新境地な感じで。相手の立場になるのも大事な事だと思うし。」
楽しそうにいつも通り笑っているが、素直過ぎる龍景には冗談なのか本気なのか
いまいち分からないらしい。あたふたと戸惑っていると、
江の指が下降するように動き出す。身の危険を流石に感じたらしく、龍景が後ずさる。
「えっ、遠慮します!」
「そう?…でも、しっかり聞こえたかも。」
ここの宿、壁薄いみたいだし。
そう邪気のない(ように見える)笑みを浮かべて、ぺたっと壁に手をつく。
龍景は顔を紅くさせたり青くさせたり大忙しだ。
「は、謀りましたね!?」
「いやだな、人聞きが悪いよ?ちゃんと協力してあげたんだから♪」
自分が楽しむためじゃないんですか!?という叫びは何とか飲み込み、
龍景は誤解を解くために慌てて二人の部屋へと向かう。
…まぁ、このお陰でその夜は確かに短かったのだが。
江も彩牙と共にじっくり楽しんだのは言うまでも無い。
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