わんこの会話。



今夜は運が良かったのか、ジャンケンに勝利した彩牙は龍景と同室になった。
食事を終え、風呂に入った後は特にやることもなく、剣の手入れでもしていようと愛刀を手にする。
床に座り込んで丁寧に汚れを落としていく彩牙の手元に、じぃっと突き刺さる視線。


「な、なに?龍景?」


先程から絶えないそれに耐え切れず、彩牙が口火を切った。
問われて初めて自分の行動に気付いたのか、しゃがんで見ていた龍景は一瞬きょとんとした顔をする。


「いや、珍しくて。二刀流なんて国内中探しても滅多にいないから」

「そうなの?確かに道場でも俺一人だったけどさ」

「そうなんだよ。彩牙は誰に教わったんだ?道場の師範?」

「ううん、師範は一刀流。父さんが二刀流だったんだ」

「あ…ごめん」

「何で謝んの?」

「いや、だって、思い出したくないだろう?」

「そんなことないよ。みんな気を遣いすぎだってー」

「…そうか?じゃあ、小さい頃から教わってたんだな」

「うーん、教わってたっていうより仕込まれてた、かな?基本だけやって後は組み手とかやって、真似して…」

「すごいな、ほとんど独学じゃないか」


軽く目を丸くして見つめる龍景の素直な賛美に照れくさくなる。


「そんな事ないって」

「いや、彩牙が戦ってるのって、すごく綺麗なんだよ。江さんも言ってた…『彩牙の剣は舞っているようだ』って」
「え…っ」



急に話題に上った江の言葉に、彩牙はかぁっと柔らかな頬を朱に染める。
そんな可愛らしい様子に龍景はくすくすと笑った。


「な、なに馬鹿なこと言ってんだよアイツ…」

「江さんは言い得てると思うけど?……大切にされてるな」

「そ、そうなのかな…好き勝手されてるだけな気が…」


穏やかな笑みと共に紡がれた言葉に、彩牙は少し戸惑う。
俯いて顔を隠す彩牙に、龍景が意外そうに目を見張った。


「え……江さんって、激しいのか?いや、凄そうだけど、凄く丁寧そうだと思っていたんだけど…」


顔を赤くしながらおずおずと尋ねる龍景に、今度は彩牙が顔を上げて不思議そうな顔をする。


「は?……えぇっ!?そーゆー話っ!?」


意味を理解した途端、真っ赤になる。


「え、違うのか?」

「違うよ!普段の行動の話!」


無意味に手など振り回しつつ、力いっぱい誤解を訂正する。
自分の勘違いに気づいた龍景も赤くなりながら、それでも少し面白そうに笑みを浮かべた。


「え、あぁそっか。……で?その、どうなんだ?」

「え?うん、凄いけど…って、言わせるなー!」

「ははは、ごめん。後学の為に…ね」


龍景は、耳まで真っ赤にした彩牙のツッコミを笑って受け流した。
素直すぎる彩牙が可笑しくてなかなか笑いを収められずに肩を震わせていたが、彩牙がじっと見つめているのに気づき向き直った。

そして、ポツリとそれは落とされる。


「…龍景のが優しそう…」


あまりのことに数秒固まった龍景は、慌てて彩牙の肩を掴んだ。


「ちょっ、彩牙!そんな事言うと、江さんに睨まれそうだからやめてくれ」

「えー?だってそう思ったんだもん〜。いいなぁー、蓮飛」

「…彩牙……」


邪気の欠片も無く言う彩牙に、冷や汗だらだらで龍景は視線を彷徨わせた。
するとすぐにその視線は、彩牙の背後でピタリと止まる。
龍景の端正な顔が引きつっていくが、彩牙は気づかない。


「あーぁ、俺も龍景みたいな人好きになればよかっ…」

「彩牙!」


思考を現実に戻すと視界に入ったのは、不自然に引きつった顔のまま、あたふたと慌てている龍景。


「?」


首を傾げて振り向くと、


「彩牙v


「こ、こここ江っ!?」



彩牙の真後ろに立っていたのは、どこかブラックなオーラを背負いながら満面の笑みを浮かべている江だった。


(こ、怖いーーーーっ!!)


後ずさろうとすると、すかさず掴まれ抱き込まれる。


「知らなかったな…彩牙が龍景の事を好きだったなんて。てっきり私を好いてくれていると思っていたのにな…?」

「ち、ちがっ…!あれはそういう意味じゃなくて…!」

「じゃあどういう意味なのか、あっちの部屋でじっくり聞かせてもらうよ」

「わぁっ!お、落ち着け江っ!下ろして!」


江は壮絶なほど妖しげな笑みを浮かべ、耳元に凄まじいほど淫靡に囁いて、ひょいと彩牙を抱き上げると部屋を出ようとする。
彩牙は身の危険を察して慌ててバタバタと暴れだすが、とんでもない力で押さえ込まれびくともしなかった。

そのまま出て行くのかと思いきや、びくびくしながら見ていた龍景の方をゆっくりと振り返った。


「…龍景」

「は、はいぃ!?」


地の底から這うような恐ろしい響きに、思わず声が裏返り身が竦む。


「こっちに蓮飛がくるから、よろしく」

「あ、は、はい!わかりました!」



ぱたん。


恐ろしいまでに綺麗な笑みを残して、無情にも扉は閉ざされた。



「こ、殺されるかと思った…」


蛇に睨まれた蛙だった龍は、バクバク脈打つ心臓に手を当てて息を吐く。


「がんばれ彩牙…」


龍景の呟きが虚しく響いた部屋には、まもなく江に追い出された蓮飛が転がり込んでくるのだった。







あとがき。
思いついちゃった、わんこ会話。(笑)なんかコメディ。
このあと彩牙は足腰立たなくなるまで、誰が恋人なのかを叩き込まれると思います(爆)





オマケ(ナリメ記録)

蓮:彩牙に言い寄られて嬉しかったんだろ〜?

龍:言い寄られ…!?そんな訳ないじゃないですかー!

蓮:じゃ何できっぱり断らなかったのかな〜。俺と言うものがありながら?(一瞥して部屋出て行ってしまう)

龍:(びっくりして慌てて追いかけ)そんな…!誤解です。彩牙は弟みたいなものだし。彩牙もふざけて言ってただけですからっ(必死)

蓮:もしっ、本気になったらどうすんだよ!(涙を溜めて相手を見ながら言う)

龍:なりませんよ、絶対に!あれは彩牙の八つ当たりなんですから。あの二人が離れると思います?…だから、泣かないでください(悲しそうに眉を寄せて涙を拭う)

蓮:…本当にか?(目元が赤いままじっと見つめて)…彩牙とよく仲良く話してんじゃねーかよっ

龍:本当ですよ(心底困った顔をして)だから弟みたいなんですって。同じ剣士だし参考になることも多いし…蓮飛さんだって彩牙や江さんと仲良くしてるじゃないですか

蓮:でも…。江と話してたって、彩牙よりいいなんて言われたことねぇもん。大体惚気だしよ。

龍:彩牙のだって惚気ですよ。恥ずかしがり屋だから…(ぎゅっと抱き締めて困り切った情けない声で)もう、どうしたら信じてもらえます…?

蓮:(じーっと見つめてむくれて)知らないっ…俺が、どんだけお前を好きか分かってないくせにっ…。

龍:蓮飛さんもわかってませんよ…俺はこんなに貴方だけを愛しているのに(キスする)

蓮:んっ…バカ…俺は、江から話聞いてどんだけ…(ふるふるとし目に涙を溜め見つめる。チワワのように(笑)

龍:(瞳にキスして涙を吸い取ってやり)すみません…貴方を傷つけてしまいましたね…(悲しそうに顔を歪めて)もうそんな思いさせませんから。蓮飛さんがやめろというなら、彩牙ともうしゃべりませんよ?

蓮:っ…そこまで言ってない…(相手を見つめて反省したようにうなだれて)ごめん…龍景…俺…分からず屋で

龍:あぁ、そんな顔しないで…(顎に手をかけて上向かせ)嫉妬してくれたんですよね?嬉しいですよ(優しく微笑む)

蓮:…そう、だけど…(目のやり場に困りながら)…嬉しいって…言われても。…わざととかじゃないよな

龍:違いますよ。嫉妬してくれるのは嬉しいけど、蓮飛さんにあんな顔させたくないですから、俺は(優しく口付ける)

蓮:んっ…俺はいっつも嫉妬してる気がするけどな。(相手の髪をいじりながら)…いつも街で声かけられてるしよ…

龍:それは…(少し口ごもって)でも俺だってたくさん嫉妬してるんですよ…街で視線を集めてるの気付いてます?(少し拗ねたように)

蓮:俺が…?(ふるふると首を振り)…知らない…お前の方をじっと見てるんだと思って…(相手の服にしがみつきじっと見る)

龍:(苦笑して抱き締め)蓮飛さんを見てますよ。特に男性は

蓮:男が?(首を傾げながら)女に見えんのかな。この俺が。(不思議そうに首を傾げ)

龍:蓮飛さんは、綺麗だから…(抱き締めて肩口に顔を埋め)俺は心配で心配で…

蓮:綺麗じゃないっつーのに…(照れながら肩口をくすぐる髪の感覚にピクッとしながら)…ホント、に、妬いてるのか?

龍:妬いてますよ。本当は貴方を閉じ込めて、誰にも見せたくない…(抱き締める腕に力をこめる)

蓮:(かぁっと顔を赤くして)…お前にされるなら、それもいいかもしんねぇな…(しっかり抱きつく)



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2005.7.8up 祭屋鳴子