小さなお話。



この街の宿では、久々というか、珍しく4部屋が空いていた。
江が3部屋でいいと言い張るのを彩牙が抵抗し、結局4部屋取ることになった。

「久々に広々と褥が使えるぜ。」

うーんとのびをして手を大きく広げる。

「いつもは隣にでかいのがいるからな〜」

身体はでかくて…なのに、いつも腰が低くてボンボンのくせに偉ぶるなんて知らないし、
バカみたいに単純で…見てると、でっかい犬みたいなあいつ。
でも、凄く優しい穏やかな顔で俺を見て微笑む。大きくてあったかい手で、
俺の手に、頬に触れると嬉しそうに感触を確かめる。
久しく味わっていなかったぬくもり。
俺はもう、そういうものから卒業したんだと思っていた…のに。

「…今まで、居なくても良かっただろ。」

自分に言い聞かせるようにして目を瞑る。
隣が寒い。

『腕枕なんてしてっと手痺れるぞ。』
『大丈夫ですよ。気にせずゆっくり寝てください。』

いつも、まるで小さい子の面倒を見るように甲斐甲斐しく気を回して。
そんな事しなくてもいいのに。

そんな事しなくても…お前は……

「あー、もう!」

俺は布団を出ると、迷う事無く部屋を出て、別の部屋に向かった。
小さくノックをして少し待つと、ドアがゆっくり開いた。

「…蓮飛、さん…どうしたんですか、こんな遅くに…」

姿が見えたとたん、俺はなりふり構わず抱きついた。

あぁ、このぬくもりだ…

「れっ、蓮飛さん、あ…あのっ…!?」

「…でよかった。」

「え?」

「やっぱり、3部屋で良かった…」

何もしなくても、このぬくもりが愛しくて…


傍にいてくれれば…それでいい…。



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あとがき

蓮ちゃん独白。
龍景、この後真っ赤ですね。むしろ押し倒すか…?(笑)
2005.6.10up 月堂亜泉