1.生協



生協。生活共同組合の略。
全国に店舗を持つ、組合が運営しているスーパーマーケットみたいなものだ。
そして、大学内にある店舗を特に、大学生協という。
大学生協では大学生活に必要な様々なもの、本、雑誌、食物、文房具、オーディオ製品などなど色んなものが揃っている。 寮生や自宅生など、大学生の強〜い味方だ。


そしてここ、某お山の上の大学…むしろ山そのものな勢いの大学でも、 生協は愛されていた。






木曜の午後、この時間は講義がすべて終了しサークル活動に割り当てられているフリーの時間である。 サークルに勤しむ者、バイトのため急いで帰る者、図書館で勉学に励む者、食堂でまったり過ごす者…。 とにかく和やかな雰囲気に包まれている構内で、一部の空間だけ、異様な空間が繰り広げられていた。


「だ・か・らっ!何か良い案ないんですか!?このままじゃ、なーんにも決まんないじゃないですか!?」
「そないなこと言われてもなぁ…。」


たまらずバンッと棚を叩いた私に、返ってきたのはやる気のないなんとも間延びした声オンリー。 思わずキッ睨みつけると、「おぉ、怖い怖い」と両手を挙げてみせた関西弁なお兄さんは、私の一個上の葛城先輩。 青筋を立てかけた私に、隣から張り手を食らわす勢いで手が挙がる。


「はいはいはーい!“酢昆布vsかりかり梅”って良くない!?」
「良くない!!なんで『昔懐かし駄菓子対決』なのよ!ここに置いてないし!!」
「おぉっと、素晴らしい裏手ツッコミ入りました〜っ!大阪人もビックリや、この俺が保証したるっ。高野、吉本の星になって来い!!」
「なりませんっ!!吉本より松竹派ですから!!」


ぜぇ、はぁ…。
ツッコミ過ぎで、わけわかんなくなってきた…。
もう、周囲の人たちが私たちと3メートル以上間を空けてるのにも納得いくくらい訳わかんないわ。

なんでこんな漫才みたいな不毛なやりとりをしているかというと…、


「じゃあ、どうするんだよー。今度の“お菓子バトル”」


そう、私たちは影ひなたに暗躍する生協委員。
大学生の皆様に愛されちゃってるこのお店で、何も企画がないのはつまらないということで、 アンケートを取ったり、広告を書いたり、限定フェアを企画したりするのが生協委員のお仕事。 当番制で回ってくるそれが、今回たまたま私たち4人に当たった。
しかも、人気コーナー“お菓子バトル”が。

“お菓子バトル”のシステムは簡単。
2種類の似たようなお菓子を上げて、好きな方にシールで投票してもらうというもの。 投票期間は1週間。 勝った方のお菓子が、1週間サービスとして少し割引される。
これが財布の紐が堅いというか、財布の総重量が軽い大学生にとっては、なかなか嬉しいものだった。

ということで、前回好評だった“プリンvsゼリー”に代わって、今回は何にしようかと検討中なのである。
しかしさっきから全っ然、まーったく良い案が浮かばない。
さっき私がツッコんだ馬鹿、同学年の同学科の天然少年ユウは、ちょっとばかし一般大衆と違うところにツボがあるみたいだし、 葛城先輩はやる気ゼロだし。 かといって…、私も思いつかないし。


「うーん…、“ポッキーvsプリッツ”、とか?」
「あー、それなぁ、去年やったわ。確か。あん時はポッキーの圧勝だったで?」
「チョコついてる分、お得だもんな!」
「いつの時代の人間なのよ、あんたは…」


馬鹿の答えに、かなり脱力。葛城先輩に至っては哀れむような慈しむような目で、この小柄な熱血天然少年を見下ろしている。
なんだこの空気…。


「なぁ、ところでさ。これってお菓子じゃなきゃダメなのか?」
「お菓子じゃなかったら“お菓子バトル”になんないでしょ!」
「まぁまぁ、とりあえず聞いてみよかー。ユウ、何か良い案あるん?」


すっとぼけた言葉に憤慨する私を葛城先輩が押さえ込む。
先輩、レディに向かって羽交い絞めはどうかと思いますけど?


「高野、レディはボディブローかまそうとはせんで?」
「!(読まれてるっ!?)」


私と葛城先輩の恐ろしいテレパシー会話に気づくこともなく、目の前の馬鹿は真夏の眩しい太陽の下さんさんと輝く向日葵のような、全開の笑顔で言い放った。


「じゃあっ、“青雲vs毎日香”で☆」
「なぜに線香ーーーーーーっ!?!?」
「あぁ…、お祖母さんの墓参りか。」
「そう!さすがに毎日行ってると、けっこう線香代ってかかるんだぜ?」
「毎日!?」


どんなお祖母ちゃんっ子だよ…。
というか、バリバリ現代っ子な大学生の習慣じゃないよ、それは。


「そんだけ参られまくっとったら、お祖母さんも喜んどるやろなぁ」
「いや、感心するトコなんですか、そこは」
「よしっ、決まりな♪」
「決まりじゃないっ、線香なんて需要少なすぎだし!つか、あんた以外に誰が買うのよ!!そもそもココにはそんな物置いてませんっ!!」


ガッツポーズを取りかけるユウに、そこら辺にあったダンボールを全力投球。
見事に頭にクリーンヒット☆10点満点だ。(何が) 葛城先輩が白々しくスタンディングオベレーションしてくれている。


「なんだよぉ、良い案だと思ったのにー」
「どこらへんが良いのか、原稿用紙3枚分以内で説明して欲しいわね」
「『俺・が・、得・す・る・か・ら・。』?」
「句読点入れても、9文字かいっ!」


あぁ、もう嫌だ…。
一生、決まんないかも。
こうなったら、委員長に泣き付いて何か案を出して貰おうかなぁ…?

なんだか涙目になってきた。


「いやぁ、おもろいなぁお前ら」
「………。(怒)」
「あーぁ、可愛い顔が台無しやで?」
「ほら高野っ、スマイル♪スマイル♪」


あんたらのせいなんですが…っ!

気持ちを落ち着けるために、私は二人に背を向けて打開策を見出すべく、最後の希望に縋ることにした。


「そこの、隅っこでプロ野球チップスについてるカードを透かして見ようと無駄な努力をしているサキ先輩ー。何か良い意見ありませんか?」
「……………ん、俺か?」


そう。
今まで影も形もなかったけれど、今回この企画を担当するのは、私たち3人じゃないんです。 もう一人いるんです。

無口でちょっと目を離すと風景と同化してしまうこの先輩は、葛城先輩の親友にして、ユウのお兄さんなんです。
女性に大変おモテになる美青年なのに、なんで景色に溶け込むんだろう?
おかげで私たちの中で“実は忍者の末裔説”がまことしやかに囁かれていたり。


「…………“洋風vs和風”?」

「「「何のだよ(ですか)っ!?」」」


秘技トリプルツッコミ炸裂。


あぁ、神様…いや、委員長。
今回の人選…、絶対間違ってますよ…うん。






「なんでも良いけど…、どっか別の所でやってくれないかねぇー」

のほほんと生協のレジ打ちのおばさんの声が響いた。 周囲にいる全ての人間が、首を立てに振る以外の動作を知らないかのように激しく心の中で賛同した。

そう、ここは、客の大学生でごったがえす、生協の店内。


誰にも止められない強制漫才ショー(迷惑)は、日が沈むまで続くのだった。







そして今日も人知れず…いや人込みの中で堂々と、生協委員たちの努力は続いている………かもしれない。


「今回はー…、“桜餅vs柏餅”がいい!」
「今は真冬だーーーーーっ!!」






----End----

あとがき

ギャグ………に、なってます?これ(笑)
このお題は、こんな感じのノリでやるつもりです。(マジで!?)(マジです)
2004.10.31  穂高