「よぉ」
「な…!」
「こりゃまた、派手にやらかしてくれたねぇ。」

ボロボロになった機械鎧。

「こんっ、の、馬鹿ーーーっ!」
思いっきり、スパナをぶん投げてやった。




11.寂しい






バラバラと、ネジやナットが散乱している作業台の下。
椅子に腰掛ける気力なんかなくて、四肢を投げ出してもたれていた。

部屋は、台風の後のような有様。
そこら中に部品が転がっている。 アイツラが帰ってくるといつも戦争。徹夜続き。
重い瞼のままぼうっと、先刻出立した鋼の兄弟を思い起こす。

まったく一体どうしたら、この私、天才整備師ウィンリィ様の特製機械鎧をあんな風にできるのかしら。

トタトタと軽い足音。デンが私の顔を覗き込んでくる。

「大丈夫よ、疲れただけだから。」
「クゥーン。」

労うように頬を嘗めてくれる。

「デンはいい子ねー。自慢の妹だわ。アイツ等とは大違い。」

私と、デンと、エドと、アル。
まるで兄弟のように育った。いつも、一緒に遊んでた。
二人が錬金術の勉強をしてる時や、私が整備の勉強をしてる時以外は、いつでも。

大きな木が生えてる丘の上、小川にかかる橋の下、風が吹き抜ける原っぱ…。 いろんな事をして遊んで。怒られた事も結構ある。 リゼンブールに、幼い頃の思い出がない場所なんてない。

本当に兄弟のようだった。


だけど。

「アイツ等は、そう思ってないのかな。ねぇ、デン?」

不思議そうに首を傾げるので、ゆっくり頭を撫でた。
エドもアルも、多くを語らない。 固い決意を胸に秘め、二人だけでどんどん進んで行く。

連絡の一つも寄越せばいいのに。
手紙どころか、電話さえ滅多にありゃしない。

「で、帰ってきたら来たで、ボロボロで。直ったら嵐のように去ってくし。」

窓から明るい午前の光が差し込んでいる。
ばっちゃんが奥にいるはずなのに、やけに声が響いていた。



…ううん、違う。

静か、なんじゃなくて。






「普段どおりに、戻っただけ。」

あの兄弟は、居るだけで騒がしい。 別によくしゃべるってわけじゃないけど、存在自体が派手で。
きっと、どこに行っても、それは同じなんだと思う。
こんな田舎じゃ、更に。

「もっと顔出しに来ればいいのよ!せめて電話!デンもそう思うでしょ!?」
「ワン!」

うんうんと一人、腕組みして頷く。穏やかな静けさの中、私の声が響いてる。
こんな事は、もう何度も繰り返していた。

普段は何も感じないけれど、嵐が過ぎた後は。





アイツ等の、出発時の晴れやかな顔を見ると。

誇りに思う。


と、同時に、腹立たしい。


バフッと力無くデンに抱き着く。
あー、もうダメ…、眠い。
動きたくない。
デンの温もりに、ますます瞼が重くなる。







「たまには…、ボロボロになる前に帰って来なさいよね…馬鹿…。」


デンが、困ったように一声鳴いた。


end.


あとがき
書きたかったウィンリィのお話〜。
私的に珍しく気に入ったヒロインです。こう、前向きで、明るくて、強い…いい子ですよねー。
二人を支えている大きな存在だと思いますよ。
お題を見たとき、ウィンリィが浮かんだんですよ。ピピンッ!と。(笑)
あんなに騒がしい兄弟が身近に居たら、居なくなったとき、「寂しい」だろうな、と。
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