こんにちは、僕ブラックハヤテ号っていいます。
ちょっと長い名前だからブラハって略して呼ばれてます。
素敵な名前をつけてくれたご主人は綺麗な女の人、ホークアイ中尉。
怒るとすっごく恐いけど、いい子にしてる時はとっても優しい。
ちなみに僕に愛称をつけたのは、煙草のハボック小尉だよ。
そんな僕だけど、最近困ったことがあります。
東方司令部の中庭の近くで、僕は昼寝をしていた。
今日も雨で、僕はいつもの中庭じゃなくて屋根のある所に避難している。
「何だってこんなに雨ばかり続くのだろう。あぁ、これは誰かの陰謀だ。
部下たちに私を無能呼ばわりさせて、私に精神的ダメージを与えるという非常に卑劣な罠だ。
神など信じていないが、そういうものが存在するとしたら、
私は神に見放された哀れな子羊であって…というか無能無能とうるさいのだ!
私は断じて無能ではないっ!!そもそも………」
そしてさっきから僕の前にしゃがみこんで、ブツブツ呟いてるのはマスタング大佐。
大佐はね、雨の日が嫌いなんだって。
なのに最近ずっと雨で、今日も昨日も一昨日も僕の所に来てぶつぶつ文句を言ってる。
この人、こんな所にいていいのかな?
また、ご主人が探し回ってるんじゃ…。
だったら困るんだけど、僕の言葉はわかって貰えないし。
「クゥ〜ン」
「おぉ、ブラハ。慰めてくれるのか。」
違うんだけど。
大佐は僕の頭を撫でながら、とても情けない顔をしていた。
いい加減うんざりしていると、聞き慣れた足音が聞こえた。
規則正しくコツコツと軽く響く音。
僕は嬉しくて、ぱっと顔を上げる。
「大佐、そこで何をしているんですか。」
「!?」
見上げたご主人は、無表情でこめかみに青筋を立てていた。
「い、いや、なんだ。コイツが暇そうにしていたのでな。相手をしてやっていたのだよ」
「そうですか。しかし会話の内容が愚痴ばかりでは、ブラハに10円ハゲが出来てしまうので止めていただけますか?」
ハ、ハゲは嫌!
しどろもどろな大佐に、ぴしゃりと言ったご主人は僕を抱き上げた。
あー、やっと助かった。ありがとう、ご主人!
「ワンっ」
「ごめんなさいね、ブラックハヤテ号。」
僕は、微笑むご主人の頬っぺたをペロペロ舐めた。
「君は犬の味方をするのかね?部下にイジメられている上司を放って。」
「いつ、私たちがイジメたと言うんです?」
「そもそも君が、言い始めたのだろう!?」
ロイマスタング、雨の日は無能。
「あら、そうでしたか?」
しれっと言い返したご主人。がくりと膝をつく大佐。
どちらが上司かわからない、けれど此処では当たり前の光景。
「あ、大佐、こんな所にいたんスか〜。」
独特の、飄々とした声がかかる。ハボック少尉が駆け寄ってきた。
「中尉に先越されましたか。」
「ふふ、ごめんなさい少尉。休憩中だったのに。」
「いえいえ、鬼は俺達の役目っすから。」
大佐をしっかり捕獲した二人は、にこやかに会話してる。
大佐が不思議そうに首を傾げると、二人して呆れた顔をする。
「大佐との鬼ごっこの鬼ですよ。」
「いつのまにか、俺達二人の役目になってるんすよ〜?」
ふ、二人とも笑顔なのになんか恐い!
刺々しい言葉は、さすがの大佐にも突き刺さる。
「…すみません。」
「では、執務室に戻りましょう。書類が待ってますので。」
「う〜、嫌だぁー……。」
「頑張ってくださーい♪」
嫌がる大佐をずるずる引きずりながら、ご主人は去って行った。
「お前も災難だったなぁ。」
隣でひらひら手を振っていたハボック少尉は、屈んで僕の頭を大きな手でわしゃわしゃっと撫でた。
「ここんトコ、ずっと大佐に付き合わされてるだろ?お疲れ様。」
「ワン!」
まったくだよ!少尉は、よくわかってる!
僕は嬉しくて、ハボック少尉に飛び付いた。
「うわっ、ブラハ!?危ねぇだろっ」
「ワンワンっ!」
少尉は慌てて咥えていた煙草を離して、僕を受け止めた。
一番好きなのはご主人だけど、ハボック少尉も大好き。
なんか“近い”感じがするし。
「おぉ、大型犬が小型犬に襲われてますな。」
「本当、女にゃモテないくせに動物にはモテるよなー。」
「誰が大型犬だ!モテないとか言うな!」
「ブラハー、おやつ持って来たよー。」
ファルマン准尉とブレダ少尉とフュリー曹長だ。
おやつっ!!!
僕は曹長に突進する。
「俺のどこが犬なんだ。」
「いや、見たそのままの感想ですよ。」
「あぁ、右に同じ。」
「なんだよソレ。」
真面目な顔のファルマン准尉とにやつくブレダ少尉に、ハボック少尉は笑った。
「お腹空いてたのかい?ブラハ。」
そんな会話を聞きながら、もふもふと勢い良く食べていたら、フュリー曹長が目を丸くさせていた。
「あー、精神力使ったからじゃないか?」
「「「?」」」
首を捻る三人に、僕と少尉は顔を見合わせた。
その時、ふと外から光が漏れた。
「あ、雨上がりましたよ!」
フュリー曹長が僕を抱き上げて言った。
見上げた空は、雲が薄くなっていた。
「ワン!」
明日はよく晴れそうだ。
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