ごくたまに、電話をかけることがある。
調査報告だったり新情報を貰うためだったりと、用事がある時に限るが。
けれど「情報交換」だなんていうのは、実は体のいい口実で。
「やぁ、鋼の。元気かね?アルフォンス君にまた世話をかけているんじゃないか?」
「あぁ!?どっかの無能と違って、んな事しねーよバカ大佐!」
「おや、誰のことだい?」
受話器を通してロイのとぼけた声が聞こえる。きりのない応酬は他愛ないものだ。
まるで幼い子供のようなやりとりだが、エドは認めるのは不本意ながら、密かにこれを楽しんでいる。
受話器を通してくぐもった彼の声は、いつもより少し低くてなんとなく懐かしく柔らかい気がするから。
報告が終わり、くだらない世間話をいくつかした後、ふとロイが思い出したように言った。
「あぁ、鋼の。研究書がいくつか手に入ったから、こっちに来たら寄りなさい」
「……!」
それは慈しむような柔らかなトーンで。
目を丸くして固まったエドの頬が熱を帯びる。
どうしてこの男は、いつもいつも。
「…………鋼の?」
怪訝そうなロイの声が耳の奥で響く。
「…なんでアンタってそうなんだ……」
「は?」
エドは髪を掻き毟って憮然と言う。ますますロイは困惑したようだ。
電話口で大人のくせに妙に子供っぽく首を傾げているに違いない。
「何でもない、こっちの話。で?本で釣って俺たちに何かさせようってんじゃないだろうなぁ?」
「まさか。いつ私がそんな事をさせたかね?」
「いつもだろ!」
調子を取り戻していつものやりとりをいくつかして、エドは電話を切った。
まただ。
ロイはいつもさりげなく優しさをくれる。
そういう心遣いは嬉しいし、自分達に協力してくれるのだから有り難い。
でも大人の余裕みたいで、正直ムカつくのだ。
いつだってあいつは見ていないようで見ていて。
心配してるのも世話を焼かれているのもわかっている。
また、まただ。
「くっそぅ…」
「兄さん?」
その場でエドはまた頭を掻き毟る。
宿屋の飼い猫と戯れていたアルの不思議そうな声が背中にかけられた。
また、言えなかった。
『サンキュ』って、さりげなく、軽く、言えばいいだけなのに。
アイツなら格好をつけてさりげなく言うだろうに。
「さっさと大人になってやるっ!」
「はっ?」
拳を掲げたエドに、アルはますます困惑した。
|